
「会社を設立したいけれど、必要な手続きはどの専門家に頼むの?」
「トラブルを解決したい時、弁護士と司法書士どちらに相談すべき?」
日常生活やビジネスで直面する様々な法律手続きや行政手続き。いざ専門家に頼もうと思っても、「弁護士」「司法書士」「行政書士」など、国家資格の種類が多くて迷ってしまう方は非常に多いです。
「とりあえず資格を持っていそうだから」と適当に選んでしまうと、管轄外で断られたり、二度手間になったりすることも。実は、それぞれの専門家には法律で定められた明確な「独占業務(その資格を持っていないと行ってはいけない業務)」と「管轄する提出先」が存在します。
この記事では、公的機関の制度に基づき、主な7つの専門家の役割の違いと、正しい選び方を分かりやすく解説します。
法律・行政手続きの専門家(士業)には「独占業務」がある
日本では、国民の権利を守り、行政手続きを円滑に進めるために様々な「士業(しぎょう・さむらいぎょう)」と呼ばれる国家資格が存在します。
これらの資格の最大の特徴は、「独占業務」が法律で規定されている点です。独占業務とは、「その資格を持つ人以外が、報酬を得てその業務を行ってはならない」というルールのこと。これを破ると法律違反(非弁行為など)として罰せられます。
【重要】同じ資格でも「得意分野」は異なります
独占業務により大枠の役割は決まっていますが、実際の業務は多岐にわたるため、同じ資格を持つ専門家であっても、事務所ごとに注力している「専門・得意分野」が異なります。
- 弁護士: 離婚や交通事故などの「個人向け訴訟」に強い弁護士もいれば、企業間の「契約トラブル」に特化した弁護士もいます。
- 税理士: 個人の「相続税申告」を専門とする税理士もいれば、法人の「決算・企業の節税対策」に強い税理士もいます。
- 行政書士: 「建設業の許可」に強い事務所、「外国人のビザ」に強い事務所など、扱う手続きによって専門性が大きく分かれます。
だからこそ、まずは自分の悩みが「どの資格の管轄か」を知り、その上で「自分の悩みの分野を得意としている専門家」を選ぶ必要があるのです。
【一覧】主な7つの専門家の役割と書類の提出先
ここでは、皆さんが関わることの多い代表的な7つの士業について、得意とする分野と主な書類の提出先を一覧で紹介します。
| 専門家(士業) | 主な得意分野・業務 | 主な書類の提出先 |
|---|---|---|
| 弁護士 | 法律トラブル全般の解決、相手方との交渉、裁判 | 裁判所、相手方 |
| 司法書士 | 不動産や会社の「登記」、身近な法務手続き | 法務局、簡易裁判所 |
| 行政書士 | 役所への許認可申請、契約書や権利義務に関する書類作成 | 各省庁、都道府県庁、警察署など |
| 税理士 | 税務申告の代理、税務相談、決算書の作成 | 税務署、国税局 |
| 社会保険労務士 | 雇用・労働条件の相談、社会保険・労働保険の手続き | 年金事務所、労働基準監督署など |
| 土地家屋調査士 | 不動産の物理的状況の調査・測量、表示に関する登記 | 法務局 |
| 弁理士 | 特許、商標、意匠などの「知的財産権」の出願 | 特許庁 |
法律行為全般のオールラウンダー:弁護士
| 主な得意業務 | 示談交渉、調停、訴訟(裁判)、法律相談全般 |
|---|---|
| 主な書類の提出先 | 裁判所(地方裁判所、家庭裁判所など)、相手方代理人 |
弁護士は、法律事務全般を扱うことができる唯一の専門家です。最大の特徴は、「他人の代理人として、相手方と制限なく交渉したり、裁判を起こしたりできる」点にあります。
他の士業には「扱える金額の上限」や「交渉できる範囲の制限」があるケースが多いですが、弁護士にはそれがありません。トラブルが深刻化している場合や、裁判を見据えた対応が必要な場合の「最終防衛ライン」となります。
具体的にどんな時に依頼するの?
【個人の場合】
- 離婚に向けて、慰謝料や親権について相手と交渉してほしい
- 交通事故の被害に遭い、保険会社の提示する賠償金に納得がいかない
- 親の遺産を巡って、兄弟間で激しく揉めている(遺産分割調停など)
【事業主・法人の場合】
- 取引先が売掛金を支払ってくれないので法的に回収したい
- 従業員から不当解雇だと訴えられた(労働トラブル)
- 悪質なクレーマーに対し、法的な措置を講じたい
【豆知識】費用の不安は「法テラス」で解決できることも
「弁護士に頼みたいけれど費用が心配」という場合は、国が設立した法的トラブル解決の総合案内所「法テラス(日本司法支援センター)」の利用を検討しましょう。収入や資産が一定基準以下の方であれば、弁護士や司法書士への無料相談(1回30分・3回まで)や、費用の立替え払い制度(民事法律扶助)を利用することができます。
登記手続きと身近な法律問題:司法書士
| 主な得意業務 | 不動産登記(名義変更)、商業登記(会社設立)、成年後見業務 |
|---|---|
| 主な書類の提出先 | 法務局、簡易裁判所 |
司法書士は、不動産や会社の「登記」に関する専門家です。法務局に提出する書類の作成や提出を代理します。
「弁護士とどう違うの?」と疑問に思う方も多いですが、司法書士のメイン業務はあくまで「登記(権利関係を公に記録する手続き)」です。また、法務大臣の認定を受けた「認定司法書士」であれば、一定額(140万円)以下の民事トラブルについてのみ、代理人として交渉や裁判を行うことができます。
具体的にどんな時に依頼するの?
【個人の場合】
- 親が亡くなり、実家(土地・建物)の名義を自分に変更したい(相続登記)
- 住宅ローンを完済したので、不動産についている抵当権を消したい
- 借金の返済が苦しく、自己破産や任意整理の手続きをしたい
【事業主・法人の場合】
- 新しく株式会社や合同会社を設立したい(設立登記)
- 本社の所在地を移転したり、役員(取締役など)が変わった
- 会社の事業目的を追加・変更したい
【ポイント】相続放棄のサポートも可能
「亡くなった親に多額の借金がある」といった場合に行う「相続放棄」は家庭裁判所での手続きになりますが、司法書士は裁判所に提出する書類の作成代行としてサポートが可能です。争いがない相続手続きにおいては、弁護士よりも費用を抑えて依頼できるケースが多いのが特徴です。
官公署への許認可と書類作成:行政書士
| 主な得意業務 | 建設業・飲食業などの許認可申請、契約書や遺産分割協議書の作成、自動車の名義変更、外国人のビザ申請、補助金の申請サポート |
|---|---|
| 主な書類の提出先 | 各省庁、都道府県庁、市区町村役場、警察署、保健所など |
行政書士は、役所などの「官公署」に提出する許認可申請書類や、事実証明・権利義務に関する書類(契約書など)を作成する専門家です。
「行政書士って何をしてくれる人か分かりにくい」とよく言われますが、それは作成できる書類が数千種類以上もあり、業務範囲が非常に広いからです。基本的には「役所に許可をもらう書類」と「個人間の約束を証明する書類」のプロフェッショナルだと覚えておきましょう。
具体的にどんな時に依頼するの?
【個人の場合】
- 家族が亡くなり、銀行の手続きや車の名義変更をしたい(遺産分割協議書の作成など)
- 友人にお金を貸すので、しっかりとした契約書(借用書)を作りたい
- 自分の畑(農地)をつぶして、家を建てたり駐車場にしたりしたい(農地転用の許可申請)
【事業主・法人の場合】
- カフェや居酒屋などの飲食店を開業したい(保健所や警察署への営業許可申請)
- 建設業や宅建業(不動産屋)などの許可を取って事業を始めたい(都道府県等への許可申請)
- 外国人を従業員として雇いたい(出入国在留管理局へのビザ申請)
- 事業を成長させるための「補助金」や「助成金」の申請書類を作成したい
【注意】補助金の申請・電子申請のサポートは誰に頼むべき?
昨今、事業再構築補助金やものづくり補助金など、事業者向けの「補助金」申請をサポートする民間コンサル会社が存在します。しかし、日本政策金融公庫などの資料にも明記されている通り、官公署に提出する申請書類を報酬を得て作成できるのは原則として行政書士の独占業務です。
無資格のコンサル会社が行えるのは「事業計画のアドバイス」までです。さらに最近では、国が推進する電子申請システム(Jグランツなど)においても、「GビズID」の委任機能を利用することで、行政書士などの専門家へオンライン上で正式に代理申請を任せることが可能になっています。安全かつ適法に進めるためには、行政書士(または連携している専門家)に依頼することが重要です。
税務・会計のスペシャリスト:税理士
| 主な得意業務 | 税務申告書の作成、税務調査の立会い、節税相談 |
|---|---|
| 主な書類の提出先 | 税務署、国税局 |
税理士は、税務代理、税務書類の作成、税務相談を独占業務とする税金の専門家です。
個人の確定申告から法人の決算、さらには相続税や贈与税の申告まで、税金に関わるあらゆる手続きを正確に行います。「税金を計算するだけ」と思われがちですが、合法的な節税アドバイスや、税務署の調査が入った際に納税者の味方として対応するのも重要な役割です。
具体的にどんな時に依頼するの?
【個人の場合】
- 副業やフリーランスとしての収入が増え、正しく確定申告したい
- 親から高額な財産を相続した(または生前贈与を受けた)ので申告が必要
- マイホームを売却して利益が出た時の税金計算をしてほしい
【事業主・法人の場合】
- 毎月の経理作業(記帳代行)や、年に一度の法人税の決算申告を丸投げしたい
- 税務署から税務調査の連絡が入り、立ち会ってほしい
- 銀行から融資を受けるための事業計画書や決算対策のアドバイスが欲しい
【注意】無資格者(FPなど)の税務相談は違法です
「このケースだと税金はいくらになりますか?」といった個別の具体的な税金計算や相談に乗ることは、税理士の独占業務です。たとえ無料であっても、税理士資格を持たないファイナンシャルプランナー(FP)や経営コンサルタントが具体的な税務相談を行うことは法律違反となります。正確な税額は必ず税理士に確認しましょう。
労働と社会保険のプロフェッショナル:社会保険労務士(社労士)
| 主な得意業務 | 雇用保険・健康保険・厚生年金の手続き、労務相談、助成金申請 |
|---|---|
| 主な書類の提出先 | 年金事務所、ハローワーク(公共職業安定所)、労働基準監督署 |
社会保険労務士(社労士)は、企業の従業員の雇用や労働条件、社会保険・労働保険に関する手続きを代行する「人」と「労務」の専門家です。
企業の経営において、従業員とのトラブル(未払い残業代やハラスメントなど)を未然に防ぐための就業規則の作成や、国からもらえる助成金の申請をメインに行います。主に法人や個人事業主が顧問契約を結んで利用することが多い士業です。
具体的にどんな時に依頼するの?
【法人の場合(メイン)】
- 従業員を雇い入れた、または退職した際の雇用保険・社会保険の手続き
- 毎月の給与計算が大変なのでアウトソーシングしたい
- 法律の改正に合わせて、会社の「就業規則」を最新のものに見直したい
- 従業員の育児休業やスキルアップ研修などに伴う「厚生労働省系の助成金」を申請したい
【個人の場合】
- 病気やケガで働けなくなり「障害年金」を請求したいが手続きが複雑で分からない
【ポイント】「補助金」と「助成金」の違いと専門家
似た言葉ですが、経済産業省などが管轄する設備投資・事業成長のための「補助金」は行政書士の分野であり、厚生労働省が管轄する雇用や労働環境改善のための「助成金」は社会保険労務士の分野となります。目的に応じて相談する専門家を変える必要があります。
不動産の境界や「表示」の登記:土地家屋調査士
| 主な得意業務 | 土地の境界確定測量、建物の表題登記、土地の分筆・合筆登記 |
|---|---|
| 主な書類の提出先 | 法務局 |
土地家屋調査士は、不動産(土地や建物)の「物理的な状況(広さ、形、種類など)」を正確に測量し、登記記録に反映させるための専門家です。
不動産の登記には「表示に関する登記(どんな物件か)」と「権利に関する登記(誰のものか)」があります。このうち、「表示に関する登記」を行うのが土地家屋調査士であり、「権利に関する登記」を行うのが司法書士です。不動産取引や相続においては、両者が連携して動くことがよくあります。
具体的にどんな時に依頼するの?
【個人の場合】
- マイホームを新築したので、新しく建物の登記をしたい(表題登記)
- 実家の土地を兄弟で分けるために、土地を2つに分割したい(分筆登記)
- 隣の家との境界線が曖昧なので、正確に測量して境界標を打ちたい
【事業主・法人の場合】
- 広い土地を買い取り、分譲住宅地として細かく区画割りしたい
- 古くなったアパートやビルを取り壊した(滅失登記)
知的財産権のスペシャリスト:弁理士
| 主な得意業務 | 特許権、実用新案権、意匠権、商標権の出願代理、知的財産に関する相談 |
|---|---|
| 主な書類の提出先 | 特許庁 |
弁理士は、特許や商標、意匠など「知的財産」に関する手続きを代理する専門家です。
企業が開発した新しい技術や、独自のデザイン、サービス名(ブランド)などは、特許庁に登録することで初めて法的に守られます。「自分のアイデアを他社に真似されたくない」「他社の権利を知らずに侵害して訴えられないようにしたい」という時に、技術的・法的な専門知識をもってサポートしてくれます。
具体的にどんな時に依頼するの?
【法人の場合(メイン)】
- 新しい画期的な製品を開発したので、特許を取りたい(特許権)
- 会社名や新サービスの名前、ロゴマークを商標登録したい(商標権)
- 独自の商品のデザインを保護したい(意匠権)
【個人の場合】
- 個人で考えたアイデアや発明を、事業化する前に権利化したい
- 個人ブランドのクリエイターとして、屋号の商標登録をしたい
トラブルを防ぐ!専門家の正しい探し方と「ニセ士業」への注意
ここまで各種専門家の役割を解説してきましたが、最後に「誰に依頼するか」を選ぶ際の重要な注意点をお伝えします。それは、近年各省庁でも注意喚起がなされている「無資格者(ニセ士業)」による被害です。
「コンサルタント」や「アドバイザー」といった肩書きで、格安で法律相談や手続きの代行を請け負う業者が存在します。しかし、前述の通り、これらは法律違反(犯罪行為)であり、依頼した側も手続きが無効になるなどの大きな不利益を被る可能性があります。
本物の専門家かどうか確認するには?
国家資格者である士業は、必ずそれぞれの「連合会」に登録されています。依頼しようとしている人が本当に資格を持っているか不安な場合は、各連合会がインターネット上で公開している「名簿検索システム」を利用して、名前や事務所の所在地から検索・確認することができます。
- 弁護士:日本弁護士連合会「弁護士検索」
- 司法書士:日本司法書士会連合会「司法書士検索」
- 行政書士:日本行政書士会連合会「行政書士会員検索」
- 税理士:日本税理士会連合会「税理士情報検索サイト」
※無資格業者とのトラブルを防ぐためにも、名刺やホームページに所属会・登録番号が記載されているか確認しましょう。
まとめ:目的に合わせて専門家を使い分けよう
法律手続きや行政手続きは、それぞれの専門分野が法律によって明確に分けられています。ご自身の状況に合わせて、最初の窓口となる専門家を正しく選ぶことが、時間と費用を無駄にしない最大の秘訣です。
※「相続」の手続きでお悩みの方へ
ご家族が亡くなられた際の「相続手続き」は、不動産、税金、車の名義変更など複数の専門分野が絡み合うケースがほとんどです。
相続に特化した専門家の使い分けや、民間業者に依頼する際の注意点については、以下の記事で詳しく解説しています。